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君に届け 全30巻 感想とご紹介

投稿日:2018年4月9日 更新日:

容貌が怖いということで貞子扱いされていた女の子、黒沼爽子が主人公で、友達のいなかった中学を卒業して高校に入学するところから話は始まります。その子が、同じクラスの男の子風早翔太に恋することで(恋と自覚するまでにも時間がかかりますが)少しずつ友達ができたり、クラスメートと仲良くなったりと成長していきます。各所に良い場面はたくさんありますが、一番好きなシーンは、やはり爽子が翔太に告白するところです。好きな気持ちを伝えようとして、すれ違いがあってそれでもやっぱりこの気持を伝えたいと思い、告白に向かいます。そこでこの本のタイトルである「君に届け」が爽子の気持ちとして描かれます。ここまで読み進めて、爽子が成長してきていてそれが形になろうとしているこのシーンには感動を覚えます。しかし、このシーンは全体の中盤に描かれています。それでも、その後同じぐらいこの話が続き、さらに面白いものであり続けたのはなぜでしょうか。

それはこの作品は、ある意味で周りにいる友達の物語でもあるからです。爽子の高校でできた一番の友達、矢野あかね、吉田千鶴の二人の恋はいくつか描かれていますが、それがそれぞれに形の違う失恋と告白が描かれていて、そしてそれぞれの個性ある悩みと葛藤の中で恋が進んでいくところが面白いです。

そして、ある意味ではもうひとりの主人公と言ってもいいのかなと思うのが愛称くるみこと胡桃沢梅です。風早と中学校時代からの知り合いで風早が好きで爽子とライバルとなり、かなり意地の悪いことを爽子にしていきます。ここで登場するのがあかねと千鶴です。爽子のためにくるみと対決してくれます。それが、さっぱりとしたやり方で実に気持ちが良いのです。やり返すのでもなく、大勢で圧力をかけるのでもなく、爽子のために動いているということをしっかり伝えるそのかっこよさに心がふるえます。しかし、これだけではもうひとりの主人公とは言えないのです。物語の後半、みんなの進路が問題になるとき、また登場します。そして、爽子とともに教育大を目指します。もちろんこのときには、風早を取り合った件は二人の中では解決しています。その二人が励ましあいながら受験し、合格するその関係性は先のあかね、千鶴とはまた違った感じがあって良いです。そして、二人の合格が分かった後に名場面があります。二人のお祝いをしようと風早とあかね、千鶴、龍が待つ家に行ったとき、家に上る前にあかねと千鶴に対してくるみが謝ります。このシーンは、そのあとは、謝るという行為が千鶴の琴線に触れて、千鶴が泣いて許すということを面白いタッチで書いていて、コミカルになっていますが、くるみが謝った気持ちを考えるとどれほど難しいことで、それを行ったくるみの成長を感じる場面です。この場面こそが、私がもうひとりの主人公と感じる理由です。

こうした主人公の二人だけでないキャラクタの面白さがこの作品の魅力であると思います。
そして、最後はいよいよ大学進学で二人も遠距離恋愛になるのですが、不安や寂しさを乗り越えていく様子が短くも力強く描かれています。二人がついに男女の関係になる場面では、爽子がお母さんに「今日は帰らない」と言っていて、お母さんも「帰れないでなくて、帰らないのね?」と聞き返し、「うん」と答えます。ここは、この親子の絆の強さとお母さんの度量の広さを感じます。そして、大学生活が始まったあと帰省するシーンで物語が終わります。ここでも、この物語のタイトルでもある「君に届け」が描かれていて、一番大切な場面ではこのタイトルにつながるところに物語の一貫したメッセージ性があるのだと思い、そしてここまでの出来事が思い出されて、大きな感動のうちに読み終えることができました。


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