となりのオバケさん、最終話 感想
※ネタバレ注意です※
となりのオバケさんと聞くと、少し怪しげでコミカルで、楽しくほのぼのした物語ではないかと、買った時は思っていました。ですが最終話でまんまと騙され、どこか切なくて悲しくて、でもほっこりするような最終話でした。漫画を取り巻く空気がずっと新鮮で瑞々しくて、一言で言えばとても綺麗な物語だったなと思います。
主人公の七実がであったとなりの部屋にすむ、オバケさんこと小畑さん。最終話で七実が小畑さんに声をかけるシーンが、一番の感動シーンだったと言えます。「あなたは1人じゃない」それは七実が始めてこのアパートに引っ越してきて泣いていた時に、小畑さんから掛けてもらった言葉です。とても重く重い話であるはずですが、まるで涼しく新しい風が吹き抜けて行くようでした。
結論から話しますと、小畑さんは悪性の脳腫瘍によって亡くなってしまいます。元から長くない命だと分かっていたために、彼は受け入れていました。その最後に「あなたは1人じゃない」と声をかけてもらい、彼の中で色々な思いが溢れ出てきたのでしょう。自分は弱いと言いつつ、七実のことを受け入れる姿がとても印象的でした。小畑さんが亡くなっても、七実はオバケさんはとなりの部屋に住んでるよ、と近所の子に言葉を残しています。それが彼女の想いなのだな、と最後のワンシーンで感じる事ができました。
このとなりのオバケさんの中で、一番お気に入りだったキャラクターが、ダントツで小畑さんでした。本名は小畑虹で、表札がボロボロになって、オバケと読めることからオバケさんと七実に呼ばれるようになります。ですが、そのオバケさんというのが本当に可愛いのです。美大に通う学生である彼は、ある意味変人でした。マイペースでゆったりとしていて、周りの何にも囚われません。その自由な生き方からなのか、彼は誰かを引き付ける力があるように思えます。裸足で地面に寝転んでみたり、子供の遊具で遊んでみたり、蝶々を見て思わず笑ってみたり、どんな仕草もまるで子供のようで、瞳がキラキラとしていました。
作者の中嶋ゆかさんの絵は、可愛らしくてとてもほっこりします。特に小畑さんの作画については、とても丁寧で瞳の奥など透き通るように綺麗に描かれていました。普段は猫背でぬぼーっとしているのですが、ふとした時に前髪から覗く目には、読んでいる方もドキッとしてしまいます。そんな彼が病室で横たわっている時に、初めて人間らしい部分を見せていました。ずっと一人で絵を描いてきた彼が、涙をボロボロと流したのです。その姿が今まで見てきた小畑さんの中で、一番美しく見えました。
彼が最終的に亡くなってしまったのは悲しいですが、その儚い命の中に、彼の良さが特に顕著に表れていると思うのです。彼は自然を主に題材として絵を描いていました。その繊細な心を映し出すように、絵が映えて見えました。
変人だと思われていたオバケさんが、主人公とかかわり、そして命が尽きて亡くなってしまう。一見バッドエンドの悲しい結末なら思えるかもしれません。ですが七実が言っていたように、小畑さんはいつでもとなりの部屋にいるような気がするのです。それは彼が心の中で生きている、彼のおかげで救われたということの証であり、七実の中でも、読者の中でも生き続けるのではないかとは思います。脳腫瘍である事実を聞かされた時、七実はショックを受けていました。ですがそこから彼女なりに立ち上がり、そして小畑さんの最後を見送ったというのは、とても勇気のいることだと思います。全体的にまとまっていてぎゅっと良さが凝縮されたような、そんな物語を読んで、最終話では涙なしでは読む事ができませんでした。とても感動しました。